アイドルの隠れ家にて その1


シロガネ山の麓、頂上へつながる洞窟の入り口から少し離れた場所に小さな小屋がぽつんと立っている。

そこでは売れっ子アイドルが人知れず訪れ静かに羽を伸ばしている。

道を迷ってたまたまこの小屋を訪ねて彼女が出てきた時は驚いたが、今ではたまに顔を合わせて談笑するようになった。

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「いらっしゃい」

「すいません、あいにく私はここの家主じゃないんです」

「私?私はここの家主の知り合いで今は留守を預かってて」

「え、チャンピオンに似てる?そうなんですよー、よく言われるんです…て、ちょ、フラム!!!」

「まったくもう…」

「あ…ははは…どうもチャンピオンです」

「せっかく来たんだしお茶でも飲んでいく?彼女にも『お客さんが来たらもてなしてあげて』と言われてるんだ」

「どうぞ」

「おいしい?」

「お口にあったようでよかった」

「今日は彼女に用事でもあったの?」

「たまたま通ったから顔を見せに来ただけ?私と同じだね」

「え、チャンピオンがなんでこんなところにいるのかって?」

「彼女と同じような理由かな」

「みんなに注目されるというのはやっぱり疲れちゃうんだ」

「それにこういう立場だから疲れた顔も見せられないしね」

「え?噂の黒い竜に乗って空を飛んでる女の子は私かって?」

「あちゃー、やっぱり見られてたか。あまり目立たないようにこの辺で飛んでたんだけどね」

「あれは気晴らしもあるけどフラム…私の手持ちのリザードンのトレーニングも兼ねてるんだ」

「メガシンカはそれをするポケモン自身をパワーアップするけれど、身体への負担も大きくて」

「突然あふれ出てきたパワーに困惑したり怖がって暴れちゃう子もいる」

「だから余裕のある時にメガシンカして慣らすようにしてるんだ」

「そうすればいざバトルの時にもちゃんと力を制御して動けるようになる」

「そういえば君、バトル強いんでしょ?」

「シロガネ山は人が寄り付かないほど過酷な環境。そんな場所で暮らすポケモンはみんな強くて、半端なトレーナーじゃ歯が立たない」

「だからここに出入りを許可されるトレーナーはバッジを8つ以上持つような人たちばかり」

「私たちとバトルしてみる?」

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「お疲れ様」

「君やっぱり強いね!」

「落ち込まないでいいよ。私仮にも現役のチャンピオンだからね。その私を本気にさせたんだから大したもんだよ」

「ふふっ。こんなに楽しそうなフラム久しぶりに見た」

「バトルしてくれてありがとうね」

「もう行くの?あ、その前に回復してあげる」

「あとこれ、余ってるきずぐすりだけど、よかったら受け取って」

「そっかシロガネ山の頂上にいるっていうトレーナーに会いに行くんだ」

「それじゃあ一個お願いしていいかな」

「そのトレーナーに勝てたら『たまにはマサラに帰ってこい!』って隣の家の女の子が言ってたって伝えてくれる?」

「うん、ありがとう。それじゃあよろしくね」

「応援してる!勝ってね!!!」

来た時よりも少し重くなったカバンの重みを感じながら暗い洞窟へと足を踏み入れた。