アイドルの隠れ家にて その2


シロガネ山の麓にある小さな山小屋。

そこで大人気アイドルと現役ポケモンリーグチャンピオンの少女がまったりお茶をしていた。

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「そういえばさ、フラムちゃんとはどうやって出会ったの?」

ソファーに寝転がりながら雑誌を読む彼女がおもむろに聞いてきた。

「突然どうしたの」

と返すと、

「これ」

と雑誌のとあるページをこちらに向けてくる。

「『チャンピオンの相棒全解説』?そういえばそんな取材受けたねー」

若干記憶が薄れかけているが、確か数週間前に受けた取材の仮タイトルがそんな名前だったことを思い出した。

「『フラムは博士にもらった子ではなく保護したヒトカゲです』の詳細は!?」

「詳細って言われても…地元の近くで野生のポケモンに襲われてたところを助けただけだけど」

確かこの時も詳細を聞かれたが説明するのがめんどくさくてこう言った気がする。

「そこのところを詳しく!!!」

だが取材記者とは違い彼女は引き下がってはくれないようだ…。

「え?え~~~と…」

何から話したものか…と記憶をまとめながら紅茶で一度喉を潤す。

「…私の地元、マサラタウンなんだけど、遊べるところなんて何もない田舎なんだよね」

『マサラはまっさらはじまりのいろ』とは言うものの、何もないのも考え物だ。

「それこそ川や森で遊ぶぐらいしかないような田舎で、その日も家の近くのちょっとした林を探検して遊んでたんだけど」

「ところどころ木に焦げた跡があって気になって追っかけてみたら黄色いヒトカゲをポッポやコラッタが襲ってて」

「とっさに『助けなきゃ!』って飛び出しちゃって」

「もうコラッタに嚙まれたりポッポにつつかれたり痛かったなー」

見つけた時点でそのヒトカゲはうずくまって必死に攻撃から耐えているような状態だった。

このままではヒトカゲが危ないととっさに飛び出て手に持っていた木の枝で応戦したが多勢に無勢、あちこちつつかれたり噛まれたりと私自身も相当怪我を負ってしまった。

「ボロボロになりながらなんとか抱えて林を抜けようと元来た道を進んでたんだけど、追っ払ったポッポたちが仲間を連れてきたみたいで」

「背中を思いっきりひっかかれて、痛みで動けなくなっちゃって」

「そしたらフラムもボロボロなのに必死にひのこで反撃して追い払ってくれたんだ」

「その時のひのこをジュンサーさんが見つけてくれて力尽きたフラムと私を助けてくれた」

今考えれば蛮勇だったと思う。だけどこの時の判断を私は誇りに思っている。

おかげで私はフラムに出会えたのだ。

「思った以上に泣ける話…」

よよよ…と彼女は泣きまねをしておどけて見せる。

「まあ仲良くなるまでにはちょっと時間かかったけどね」

マサラタウン周辺の自然にはコラッタやポッポしか生息していないはずだ。

そこにヒトカゲがいるという事は捨てられたか、どこかから迷い込んだか。

珍しい色違いなので捨てられたとは考えにくい。

そして色違いはただでさえ目立つ。

野生では目立つことは敵に狙われやすくなり、生き残る確率が低くなる。

野生の色違いの個体が珍しいのも『生き残っている』個体が少ないからだ。

それに集団は異端を排除しようとする。

他とは違う色をしていたためおそらく集団から追い出されたのだろう。

そして食べ物を求めてさまよい歩いて、マサラタウン近くまで来てしまった。

疑心暗鬼になっていたのだろう、目が覚めて真っ先にヒトカゲが保護されているオーキド研究所まで行ったが、フラムはゲージの奥からにらみつけるだけで与えられた餌を食べようとしなかった。

それからは時間があれば顔を出し例え餌を食べなくても一緒に過ごすようにした。

やがて餌を食べだし、一緒に遊んでくれるようにもなった。

『この子と一緒にいろんなところへ行ってみたい』

そう考えるのは自然な流れだった。

マサラタウンでは新しくポケモントレーナーとして出発するのにオーキド博士からパートナーをもらうのが通例だったが、私は博士に頼んでフラムと一緒に行くことをお願いした。

それからは大変なこともいっぱいあったが、何よりも楽しかった。

「なに一人で感慨にふけってるのよ」

彼女のツッコミで我に返る。

「まあいいや、詳しい取り調べはまた聞くとして」

「取り調べって…」

「この間の撮影の差し入れで美味しいお菓子もらったのよ、食べる?」

「あ、じゃあ私はお茶入れるね」

「よろしく~♪」
 
少女二人がソファから腰を上げるとキッチンへと消えていった。