「ただいま~」
オーキド博士から渡したいものがあると突然連絡が来た。
珍しいこともあるものだ、と帰省を兼ねてマサラタウンに戻ってきた。
数か月戻ってなかった我が家の香りがなぜだか新鮮だった。
「突然帰ってきてどうしたの?」
「オーキド博士が何か渡したいものがあるんだって」
「それでついでに戻ってきたと」
「そう」
ソファーに座りながら入れてくれた紅茶をのんびりとすする
「あ、そうだ」
そう言って母は二階へと上がっていった。
しばらくして、
「これ、お守り。持って行って」
そう言って不思議な模様の石がはめ込まれた鍵のネックレスを渡される。
「これ何の鍵?」
「何の鍵かは分からないんだけど昔おばあちゃんからもらったお守り。あなたにあげる」
「おばあちゃんから?」
「おばあちゃんもお母さんからもらったんだって」
「じゃあ年代物なのかなこれ」
「そうなんじゃない?」
「ふーん」
そう言いながら「ありがと」と言って首からぶら下げる
ふとリビングの時計を見てみると博士との約束の時間が迫っていた。
「あ、そろそろ行かなきゃ」
「気を付けてね、晩御飯は?」
「じゃあ食べようかな」
「了解。あなたの大好きなの作っといてあげる」
「やった!行ってきまーす」
~~~~~~
「こんにちは~」
オーキドポケモン研究所の扉を開ける。
「あ、リーフちゃん。久しぶり~」
「お久しぶりです~」
顔見知りになっている研究員に挨拶しながらオーキド博士がいつもいる机まで行く。
「博士来ましたよ~」
「おお、リーフ来たか」
パソコンに向かって眉間にしわを寄せていた博士がこちらを振り向いた。
「ちょっと待ってくれんか、これだけ入力させてくれ」
そう言って再び画面に視線を戻す。
ちょくちょくある事なのでいつも通り応接ソファーへ勝手に座らせてもらう。
しばらくして。
「待たせてすまんのう」
そう言いながら小さな箱を机に置いてリーフの向かいのソファーへと座るオーキド博士。
「これは?」
箱の中には違う模様の入った丸い石のようなものが2つ収まっていた。
「これはメガストーンと言ってな、一部のポケモンをまるでシンカのように強化ができるそうじゃ」
「進化?」
「シンカと言っても一時的なものらしいのお。カロスのプラターヌ君が専門で研究しておるがまだ分からないことが多いらしい」
「へー」
片方は虹色をした玉で、もう一つはオレンジがかった色をしている。
まるで炎のようだ。
「これをお前さんに渡そうと思ってな」
「私にですか?」
なんだか宝石にも似ていて高級そうで少し気が引ける。
「この前の学会でプラターヌ君と話す機会があってな。リーフの話をしたらぜひ使ってみてほしいと送ってきたんじゃ」
「でもこれどうやって使うんですか?」
「こっちのオレンジ色の方はリザードナイトと言ってな、リザードンに持たせる」
とりあえず研究室の広いスペースにフラムを出して、リザードナイトをベルトのようなものに取り付けフラムの首元につける。
「そしてこっちのメガストーンはトレーナーが…ってなんじゃもう持っとるではないか」
「えっ?」
そんなもの手に入れた記憶が無い、何のことを言ってるのだろう。
「ほれ、そのネックレスじゃ」
博士が指し示した先は、先ほど母からもらったお守りのネックレスだった。
「その鍵の持ち手になっとる部分、そこに嵌めこまれてるのがメガストーンじゃ」
首から外して眺めてみる。
古いものと聞いていたので少しくすんでいる気がするが確かに箱に入っている石と模様は同じだった。
「どうしたんじゃそれは」
「さっき家に戻った時に母がくれたんです。お守りだって」
「ふむ、ではそれを使うといい」
そう言いながら博士は箱の蓋を閉める。
「早速で申し訳ないがメガシンカを試してみてくれんか?」
「うまくいくか分かりませんけど…」
正直よく分かっていないが試してみるしかない。
~~~~~
「ここでいいじゃろう」
研究所から少し離れた敷地内の広場に博士と数人の研究員とともにやってきた。
「とりあえずやってみようフラム」
フラム自身はやる気満々らしく空に吠える。
「……メガシンカ」
呟くとフラムの首元と同時に私の首元も輝き始めた。
数瞬の後。
「…きれい」
一回り体が大きくなり翼も大きくしなやかになったフラムがそこにはいた。
当のフラムは大きな雄たけびを上げ、力が有り余るような仕草で大空を飛び始めた。
普段よりも飛ぶスピードが速い気がする。
「おお、これがメガシンカか」
「カメラ回してるよな」
「はい、大丈夫です!」
博士や研究員たちも思い思いに声を上げる。
雲一つない青空を力強く飛び回るフラムをとても力強く美しいと感じた。
~~~~~
「興味深いものを見せてくれてありがとうのう」
「いえ、プラターヌ博士?にお礼を言っておいてください」
「ああ、伝えとく」
「それじゃあ、行きますね」
「気を付けて旅を続けるんじゃぞ」
短く会話を交わしてオーキドポケモン研究所を後にする。
家へと返る道すがら、先ほどメガシンカした時に感じた不思議な感覚を思い出していた。
一瞬だけだがフラムと繋がれたような…暖かくなるような不思議な感覚。
ボールからフラムを出して、
「さっきのメガシンカ、どうだった?」
と聞いてみる。
とても嬉しそうに頭をこちらに出して撫でられ待ちを始めたのでちょっと強めにわしゃわしゃと撫でてやる。
いつにもましてご機嫌な様子。
フラムも私の気持ちが伝わった…そうだといいな。
ひとしきり撫でた後フラムと一緒に歩きだす。
「さあ、今日は久々にお母さんのご飯が食べられるよ」
フラムのご機嫌な鳴き声が夕方の空に溶けていった。