チャンピオンロードを抜けた先、ポケモンリーグの荘厳な扉の前で、リーフは一人の挑戦者を待っていた。現れたのは、エリートトレーナーを名乗る青年。その隣には、不安げに体を揺らすプクリンがいた。
「チャンピオン・リーフ!あなたに挑戦する!」
青年の声は大きいが、どこか虚勢を張っているように聞こえる。リーフは静かに頷き、相棒のフラム(リザードン)をボールから出した。
バトルが始まると、リーフはすぐに違和感に気づいた。
「プクリン、『はかいこうせん』だ!」
最強クラスの技。しかし、指示を受けたプクリンの動きは鈍い。一瞬、トレーナーの顔を不安そうに見上げてから、力を溜め始める。その隙をフラムが見逃すはずもない。
「フラム、あの岩を狙って『かえんほうしゃ』」
リーフの指示はシンプルだった。フラムが放った炎はプクリンを掠め、背後の岩を黒く焦がす。威力は抑えられている。
「くっ…!なにをしてる、プクリン!次は『うたう』だ!眠らせてしまえ!」
青年の指示が飛ぶ。だが、プクリンは戸惑っていた。攻撃しろと言われたり、眠らせろと言われたり。主人の声に宿る焦りと迷いが、波のように伝わってくる。プクリンは歌えない。どうすれば主人の期待に応えられるのか、分からなくなってしまったのだ。
その小さな心の震えを、リーフは見逃さなかった。バトルという対話を通して、プクリンの不安が痛いほど伝わってくる。
リーフは静かにフラムを手で制し、まっすぐに青年を見つめた。
「ねえ、少し話さない?」
突然の言葉に、青年は面食らう。「バトル中に何を…」
「あなたのプクリン、すごく戸惑ってる。あなたのこと、信じてる。信じてるからこそ、どうしていいか分からなくなってるんだ」
リーフの言葉は、まるでプクリンの心を代弁しているかのようだった。
「あの子、あなたの声が震えているのが不安なんだ。『本当にこの技でいいの?』『僕、ちゃんとやれてる?』って、私にじゃなくて、あなたに聞きたがってる」
青年はハッとして、自分のパートナーを見た。プクリンの大きな瞳が、潤んでいる。スランプに陥り、自信を失っていたのは自分だ。その迷いが、一番近くにいるパートナーを苦しめていた。
「ごめん…ごめんな、プクリン」
青年は膝をつき、プクリンを抱きしめた。勝敗なんて、もうどうでもよかった。
リーフはフラムの首を優しく撫でながら、静かに告げた。
「バトルは、ポケモンとの対話。まずは、一番近くにいるその子の声、聞いてあげて」
その日、ポケモンリーグに挑戦者の声は響かなかった。だが、一人のトレーナーと一匹のポケモンが、失いかけた絆を取り戻す、静かで温かい時間が流れていた。