カントー地方の深い森の中、リーフはジニア先生から預かったばかりのポケモン図鑑アプリの試作版を片手に、熱心に森のポケモンを観察していた。
「フシギダネの光合成する場所の特徴は…あれ?」
突然、アプリの画面がフリーズし、奇妙なエラーメッセージが表示された。
「これは困った…」
リーフはすぐにアプリを閉じ、電波の届く開けた場所まで移動した。こんな不具合は、すぐに報告しなければ。
スマホを取り出し、ジニア先生の番号をタップする。数コール後、電話の向こうから、ひどく眠そうな声が聞こえてきた。
「……もしもし、リーフさん?こんな時間にどうしたんですか……」
「ジニア先生?こんな時間って、こっちはまだ夜が明けたばかりですよ。また徹夜してたんですか?」
リーフの言葉に、ジニア先生は「うぐっ」と喉を詰まらせた。パルデア地方との時差を考えても、まだそんなに遅い時間ではないはずだ。やはり、研究に没頭して時間を忘れていたのだろう。
「体を壊したら元も子もないですよー。それで、今ちょっと図鑑アプリの試作版を使ってたんですけど、フシギダネの生態データを記録しようとしたら、急にフリーズしちゃって。エラーコードは……」
リーフは手早く不具合の内容を伝え、ジニア先生は時折「ふむふむ」「なるほど」と相槌を打つ。その声は、不具合の内容を聞くうちに、少しずつ覚醒していくようだった。
「……で、ついでと言ってはあれなんですが、先生。この森にいるフシギダネって、他の地方のフシギダネと比べて、葉の模様が少し違う気がするんですけど、何か知ってます?」
不具合報告を終えると、リーフは本題に入った。彼女の好奇心は、常に尽きることがない。
「ああ、それはですね……」
ジニア先生の声は、もはや眠気など微塵も感じさせない、いつもの情熱的なトーンに戻っていた。フシギダネの葉の模様が示す地域差、光合成する場所の微妙な違い、そしてそれが進化に与える影響について、専門的な知識を交えながら熱弁を振るう。リーフは、その話を一言も聞き漏らすまいと、真剣な表情で耳を傾けた。
数分後、話が一区切りついたところで、リーフはにこやかに言った。
「ありがとうございます、先生!すごく参考になりました。じゃあ、私、もう少し森を探索してきますね」
「ええ、気をつけて……」
「それと、先生。ちゃんと寝てくださいね?」
リーフの釘を刺すような言葉に、ジニア先生は苦笑いする気配を電話越しに感じた。
「は、はい……」
電話を切ると、リーフはスマホをポケットにしまい、再び森の奥へと足を踏み入れた。ジニア先生から聞いたばかりのフシギダネの生態の話が、彼女の好奇心をさらに刺激する。
(なるほど、あの模様の違いはそういうことだったんだ。じゃあ、あのフシギダネは……)
リーフの瞳は、新たな発見を求めてキラキラと輝いていた。